園長便り2020-13

ルールを守るということ②

園長:中村貫太郎

8年前に安全運転管理者講習で聞いた講師の話がとても印象的で、今でも心に残っています。

講師が現役の警察官だった頃、自転車に乗っていた子どもがダンプに跳ね飛ばされた事故現場に立ち会ったそうです。そこには頭が潰れ、骨が粉々に砕け、まるで糸が切れたあやつり人形のようになった子どもの姿がありました。小さな体にこれほどの血が入っているのかと驚くほどの血が流れ、辺り一面は血の海になっていました。祖母と思われる女性がその子の名前を叫びながら近寄って来たのですが、子どもの所まで進むことができず、途中で膝をついて倒れこんだまま何度も名前を叫び続けていたそうです。講師は交通整理を担当していましたが、事情聴取を受けている運転手を目にした時に「もし、これが自分の子どもだったら、運転手を拳銃で撃っていたかもしれない」そんなことを想像してしまう衝動にかられるほど悲惨な現場だったそうです。交通整理をしながら涙が止まらなかったということでした。「加害者はどんな事情があろうとも、どんなに時が経とうとも、遺族にとっては加害者であり続けるのです」という講師の言葉に重みを感じました。

法律や規則と聞くと自由が制限されたり、窮屈さを感じるという方もおられるかもしれません。ですが交通ルールはこのような悲惨な事故によって最愛の人を亡くし悲しむ人や、人をひいて殺人者となってしまった事実に苦しむ人がいなくなるようにと定められています。ルールは相手を束縛したり、揚げ足を取って攻撃するために利用するものではありません。また、逆手にとって自分の利益を増やすためのものでもありません。お互いが悲しむ未来ではなく、幸せな未来を目指すためにあります。相手を大切に思うこと、そしてお互いを大切にし合うことがルールの大前提にあります。

ですが、ルールだけでは対応しきれない状況が生じる場合もあります。子どもたちが将来そのような場面に遭遇した時に、相手を思いやる心を持って対応できる人であって欲しいと願います。そのために必要な心を育てるのは、今が最大のチャンスです。社会のルールも、家庭でのルールも、お互いを大切に思い合う「愛」が出発点となるということを、ご家庭の中でも伝えていただければと思います。