園長便り2020-09

受け身の大切さ

園長:中村貫太郎

札幌駅で地下鉄の階段を下っていた時のことです。階段が終わりホームに着いたところで突然、目の前に中年の女性が倒れてきました。どうやら隣の列の階段で足がもつれてバランスを崩し、ホームに滑り込むように倒れてしまったようです。驚きつつも声をかけようと「だいじょ・・・」まで口にしたところで、女性はサッと立ち上がり「あら、転んじゃったわ。私大丈夫かしら~」と言いつつ、転倒したことを恥じることもなく、余裕をもってその場を立ち去って行きました。その見事な身のこなしと落ち着いた姿に、私は心の中で拍手喝采をしていました。何より見事だったのは、転んだ瞬間に取った受け身でした。体は少しひねりつつ腕を前に伸ばし、頭は床にぶつけないよう肩でガードし、前方に滑りながら全身で衝撃を受け流していました。その様はまるでボールに向かって飛び込むバレーボール選手のようでした。上手に受け身をとれたからこそ、すぐに立ち上がることができたのでしょう。

その後、幼稚園に向かう地下鉄の中で受け身について考えていると、ふとスキーのことを思い出しました。初心者のレッスンではゲレンデで滑り出す前に、指導員は必ず安全な転び方(受け身)を教えます。受け身は滑れるようになる事には直接関係しませんが必要不可欠な知識です。なぜならスキーは転倒するリスクが高く、転倒により受けるダメージが大きいスポーツだからです。しかし、上手に受け身をとれば怪我のリスクは低くなり、転んでから立ち上がるまでの時間も短くなります。滑ることを楽しむスキーにおいて、転倒というマイナスの部分をプラスに捉えられるように、ゲレンデに出る前に転び方を教えるのです。

これを子どもの成長に置き換えて考えると、私たちは子どもが何かができる様になる事(成果や結果)に注目しがちであることに気付かされます。成長の中における受け身とは肯定的思考だと私は思います。肯定的思考を持つことで失敗してもそこから学び、プラスに捉えることができる様になります。肯定的思考や自己肯定感は、親に無条件に愛されているという事を実感することで強くなります。何かができるようになったから「よくやった!」と言うのではなく、たとえできなくてもありのままを受け入れ、「そんなあなたも愛しているよ」という思いを伝えていくことが、受け身を教えていく事になるのではないでしょうか。