園長便り

たった7分間でも

園長:村沢秀和

たった1人の男性が行った、1日たった7分間の行為が、人から見捨てられたような、薄汚れてみすぼらしかった町を、美しい花々に覆われて、多くの人が訪れる町に変えてしまいました。彼はバスのドライバーでした。

毎日、バスのルートの終着点に到着すると、そこで7分間だけ停車し、再び元のルートに戻っていきます。毎日、その繰り返しでした。その終着点は町の外れにあり、その町の中でも最も荒廃した地域でした。バス停の周りは、ビニール袋やがらくたなどのゴミで溢れかえっていました。

彼は、来る日も来る日もそのゴミで汚れた光景を見ていて、いつも気分が悪くなりました。そんなある日のこと、彼は決心するのです。このゴミを何とかしようと。彼はバスから降りると、ゴミを拾い始めました。毎日、停車時間の7分間だけ、バスから降りて、少しずつゴミを拾い始めたのです。

7分間だけでできることはわずかです。しかし、それを毎日続けていくうちに、周辺は確実にきれいになっていきました。地域の人々は、周辺がきれいになっていくのに気が付き始めました。ごみが一通りきれいに片付くと、今度は空き地に何袋もの土を運び入れました。そして、そこに花の種を蒔いたのです。彼はゴミ捨て場のような場所を、きれいな花でいっぱいにしようと考えたのでした。

このバスドライバーのたった7分間の行為が、ある日地元の新聞に取り上げられました。この新聞記事は反響を呼び、記事を読んで感銘を受けた人たちが、バスに乗って終着点までやって来るようになりました。きれいな花を見て、ここがかつてゴミダメのようになっていたなんて信じられないと言いました。ここを訪れる人たちの中には、バスドライバーの働きに賛同し、一緒に種を蒔き、そして花を育てるのを手伝う人も出てきました。

こうして、たった一人のバスドライバーの、たった7分間だけ捧げた行為が、人々から見捨てられ、薄汚れたゴミダメのようなところを、美しい花々に囲まれて、たくさんの人が集まる場所へと変えてしまったのです。

 

僅かな行為でも、少しずつ積み重ねるなら、それはやがて大きな結果を生むことになります。諦めないこと、忍耐することが大切なのです。

 

「私たちができる限りの努力をするとき、私たちの人生にどんな奇跡が起こるでしょうか。また他の方々の人生にどんな奇跡が起こるでしょうか。」     

ヘレン・ケラー