園長便り

生きる喜びと成長

園長:村沢秀和

3学期もいよいよ終わります。この1年の間に、園児たちは身体も知能も、そして心も、大きく成長しました。先日、ある園児が転んでしまい泣いていました。すると、周りの子たちがすぐに集まってきて、「どうしたの?」と心配そうに声をかけています。頭をなでてあげる子もいれば、ティッシュを持ってきて涙を拭いてあげる子もいます。このような友達の優しさに触れられて、泣いていた園児も、しだいに落ち着きを取り戻し、立ち上がることができました。入園したての頃は、自分のことで精一杯だった子どもたちが、今では他者のために自然に心をかけるようになっているのです。
ところで、子どもの成長には様々な要素が必要ですが、その中の一つとして、東京大学名誉教授の小林登先生(国立小児病院〈現・国立成育医療センター〉名誉院長)が、次のような興味深いお話をしてくださいました。
「小児科医の間では、生きる喜びのない子どもは、気を付けて診察しなさいと言われます。虐待に遭っていたり、自分は親に喜ばれていないと感じている子どもの可能性があるからです。生きる喜びがないと、子どもはよく育ちません。子どもは頭をなでてもらう機会が多いだけでも喜びになるものです。欧米では、「赤毛の子(欧米ではかわいがられる)はよく育つ」と言われます。また、病院で生まれたばかりの赤ちゃんが並んでいる場合も、「通路側の子どもはよく育つ」と言われます。声をかけられたり、笑いかけられたり、頭をなでられたりする機会が増えるからでしょう。
また、このことを裏付けるデータもあります。たとえば、発展途上国で、栄養失調のために成育が芳しくない子どもの死亡率は、サポートする人がいないと4.5%でしたが、いつもやさしくふれ合ってくれるボランティアがいる子どもたちは、医学的な治療は全く同じであるにもかかわらずゼロでした。また、感染症にかかる回数も10分の1になり、体重は50%も多くなっていました。いかに、やさしい言葉や心が生きる喜びを引き出し、子どもの成長をうながすかがわかることでしょう。
これからも園児たち一人ひとりが、愛情豊かな環境の中で、ますます健やかに成長していくことを心から願っています。そして三育幼稚園は、そのような環境をいつも提供できる場となれるように勤めてまいりたいと思います。最後に、卒園していくゆり組の子どもたちが、次のステージでもさらに飛躍できますように、お祈りしています。