園長便り2021-11

自我の育ちとケンカの関係

園長:中村貫太郎

以前の園便りで、剣道の「守・破・離」の教えをご紹介しました。その中で「各家庭で教わったことを、集団の中で安全に活動していくために適応させていくのが幼稚園での学びの一つ」とお伝えしましたが、ここでひとつ問題となるのは、各家庭で教わる「型」がみんな同じではないという点です。

剣道の型も現在では全国で統一されていますが、以前は流派によって違っていました。同じように、家訓や家族構成の違いなどから、子どもが教わる「型」も各家庭によって違いがあります。また子どもが持っている特性もひとり一人違います。それらの違いを含めて適応させようとする際に生じる出来事のひとつがケンカです。

大抵の場合、初めてのケンカは物への所有意識が芽生える1歳頃に物の取り合いというかたちで始まります。他人と物を取り合うことで心の中に葛藤が生まれます。

自我は普段それほど意識する事はありませんが、こうした葛藤が生まれた時に強く実感します。トラブルを通して子どもは自我を感じつつ、対人関係についても学び始めながら自我を形成していきます。成長するにつれてそれが場所の取り合いや順番争いへと発展し、やがてプライドや嫉妬心からの衝突へと原因や性質を変えていきます。

この様なケンカを通して、次の様な自我が発達していくと考えられています。

①感情のコントロール 

②自己肯定感 

③粘り強さ 

④言葉で伝える力 

⑤人と関わる喜び

これらは学力やIQのように数値化できませんが、人生を豊かにするために必要な能力につながっていきます。しかし、ただケンカをさせれば良いということではありません。ケンカにもルールと教育が必要です。

「石や物を投げつけない」「噛まない」「目や急所を狙わない」など、相手を傷つけない最低限のルールを守る事は、どの家庭でも共通して教えている事だと思います。

相手を傷つける行動は気持ちの高ぶりに拍車をかけるだけで、その後の解決に向けての道筋を複雑にします。ですからルールを守った上でお互いの言い分を全て言い切らせてお互いの思いを知り、問題の原因とその解決策について考えることができるように教育していく必要があります。

そして最後は仲直りをして終わることが理想的です。ただし、大人が仲直りすることを強制したり、相手の言い分も理解せず、ケンカによって生じた負の感情と向き合うことから早く逃げたいために仲直りをするのでは、自我の成長はあまり望めません。お互いに納得して終えることが大切なポイントです。