園長便り2021-08

不思議な光景

園長:中村貫太郎

今年の夏は札幌でも気温が35℃を越える猛暑日が過去最多となり、真夏日の連続日数も過去最長を記録するなど、とても暑い夏休みとなりました。

 そのような記録的な暑さの中、オリンピックのマラソンが札幌で開催されました。テレビ中継で男子マラソンを見ていると、ゴール付近で3番手を走っていたナゲーエ選手が何度も後ろを振り向き、右手を横に振るという奇妙な行動をしている事に気がつきました。

4番手ですぐ後ろを走るアブディ選手の追い上げを警戒しているのかと思いましたが、横に振る右手はまるで「前に行け!」と指示しているように見えました。しかし、違うデザインのユニフォームを着ていることからも分かる様に、代表している国が違う選手です。

不思議に思いながら見ていると、その後も何度も後ろを振り返りながら、何かを叫んでいるようでした。そしてナゲーエ選手はゴール直前のラストスパートで順位を上げ、2位でゴールしました。そのすぐ後ろを走っていたアブディ選手もナゲーエ選手に引っ張られるように3位でゴールすると、二人は抱き合って喜んでいました。

 

後日読んだインタビュー記事で、二人ともソマリアの出身で不安定な情勢が続く祖国を離れヨーロッパに移住し、代表する国は違うが一緒に練習を重ねてきた仲であったことを知りました。

アブディ選手は残り3キロの地点で右太ももにけいれんを起こしていたそうで、それに気付いたナゲーエ選手はアブディ選手がついてこられるようスパートをかけるタイミングを遅らせ、「頑張れ」と声をかけて励ましていたのだそうです。

今回のレースは106人中30人が途中棄権するという過酷なものでした。おそらくナゲーエ選手も苦しい状況であったと思います。しかし、それでも最後まで友を励まし続けたという事実に感動しました。3位となったアブディ選手も「彼がいなかったら最後の3キロは難しかった。彼が2位、自分が3位になれて本当にうれしい」と語っていました。

 2学期が始まるにあたり、園では「自分だけでなく、友達が喜ぶことをたくさんできるように考えていきましょう」というお話をしました。自分勝手な思いを押しつけるのではなく、相手のことを考えて思いやり、行動できる人に育って欲しいと思います。