園長便り2021-03

器づくり

園長:中村貫太郎

前回の園長便りで、幼児期は陶器作りでいえば土台となる粘土を練る工程とお伝えしました。ですが年長児では、生活の土台となる基本的生活習慣が身についてきているお子さんも多く見られます。そうなると次は器の形を作る工程になります。

器を作る手法には、粘土を紐状にして輪を積み重ねていく手捻りを初めとし、タタラの技法で板状にした粘土から平皿や角鉢を作るなど様々な方法があります。中でも多くの人に知られているのは、ろくろで作る方法ではないでしょうか。

職人は簡単に作っているように見えますが、実際に初めて作った時は、想像していた以上に指の力加減が難しかったことを覚えています。まず粘土の中心に親指を当て、ゆっくりと中に入れていきます。中心に穴ができたら外側に小指以外の3本の指をあて、少しずつ力を入れてゆっくりと引き上げていきます。

湯飲みの場合は下の部分は厚くし、上にいくにつれて徐々に薄くしていきます。最後に口があたる縁の部分は少し厚くし、なめし皮を軽くあてて滑らかにします。引き上げる時に慌てて力が入りすぎると、厚みが不揃いになりバランスの悪い器になってしまいます。また中心から外れると形がゆがみ、ろくろの遠心力に負けて潰れてしまうこともあります。

手につける水の量や粘土の柔らかさの他、ろくろの回転速度を調整するなど、いろいろなことに気を配りながら器は作られていきます。「渾身(こんしん)の力を込めて手の力を抜く」という表現が見事に当てはまる作業だと思いました。

ろくろで作る時のポイントは、粘土の状態を良く見ること。粘土の中心を捉えること。そして、あまり考えすぎずに作ることだそうです。自分のやりたいことを沢山詰め込んで考えながら作ると、器に迷いが出やすいのだそうです。

子育てにおいても、まず子どもの状態をよく見る(理解しようとする)ということは大切なポイントです。「こうあって欲しい」という親の思いは、子どもを育てる上で大切な指針となりますが、思いが強すぎると「こうならなければいけない」と力づくになり、親も子どもも苦しくなります。親子関係もいびつになります。

逆にろくろを回すだけで粘土に手をあてなければいつまで経っても器ができないように、子どもの思うまま好き勝手にさせているのでは、人としての品性は育ちません。それぞれの状態や成長に合わせて手をかけていく必要があります。しかし、その時は手をかけすぎるのではなく「渾身の力を込めて手の力を抜く」ことが大切です。