園長便り2021-02

粘土づくり

園長:中村貫太郎

学生時代に不思議なご縁で陶芸家と知り合い、2年ほど茅葺き屋根の古民家を改装した工房に通って、器の作り方を教わっていたことがありました。元は同じ粘土の塊が、作り方一つでいろいろな器になっていく工程がとても興味深く、毎週の楽しみになっていました。

陶芸というと電動ろくろで、あっという間に湯飲みやお碗を作る職人の姿を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、それは陶器作りの一部分でしかありません。しっかりとした下準備があるからできる職人技なのです。

陶器作りにおいての下準備は粘土づくりです。粘土づくりは土を選ぶところから始まり、次の様な工程を経て粘土になっていきます。

1、粉砕作業:荒土をくぼみに入れて杵で突き、細かく砕いて粒子が均等になるようにする。

2、水簸(すいひ)作業:粉砕した土を水の中で沈殿させ、水が透明に澄んだら上澄みを捨て上から3分の2の細かい土だけを取り出す。取り出した土は木枠に布をかけた水簸プールに移して約24時間水分を抜く。その後、土を皿に移し日陰干しにする。人肌ほどの粘りが出てきたら胚土の完成。

3、練  り:胚土を足踏みして土の硬さを均等にする。次に土の塊を両手で押しつけながら前後に転がすように左右に押し伸ばし荒もみする。伸ばしたら砲弾型にまとめる。そして土の中の空気を追い出すための菊練りをして、ようやく器にすることができる粘土になる。

粘土の中に空気が入っていると、窯に入れて器を焼く時に空気が膨張し破裂します。飛び散った破片が周りの器も壊すことがあるため、練りだけでも少なくとも3時間は繰り返すのだそうです。土と格闘し、手間と時間をかけて粘土は作られていきます。

子育てを陶器作りにたとえると、幼児期はあと少しで粘土ができあがる練りの最終段階といえるのではないでしょうか。粉砕作業を不眠不休で母乳を与えていた頃とすると、水簸作業は言葉が通じない中で身の回りのお世話をしてきた乳児の頃でしょう。今は生きていくために必要な基本的生活習慣を繰り返して身につけていく練りの時期です。粘土は焼き物の命と言われています。粘土が悪ければ器はもろくなり、手触りもしっくりこないのだそうです。この時期にしかできない訓練を大切にしていただければと思います。