園長便り2020-08

一滴の水が川となるように

園長:中村貫太郎

先日、移動中に聞いていたラジオ番組で、ヘルマンハープという楽器が紹介されていました。ドイツのバイエルン州の農場主ヘルマン・フェーさんが、ダウン症の息子のために考案した楽器で、歌が大好きなのに、発語がうまくできない息子のために「メロディーを自分で演奏することのできる楽器を与えてあげたい」という思いから開発が始まったのだそうです。

そして今から33年前に弦と本体の表板の間に運指表のような特別な楽譜を差し込むことで、どの弦をどの順番で弾けばよいかが視覚的に分かる楽器を完成させました。息子の身体の特徴に合わせて作られた楽器は、障がいの有無や音楽経験の有無を問わず、誰もが平等に演奏を楽しむことができる楽器として広まっていったそうです。現在、日本でもヘルマンハープを演奏する方は4500人もいるそうです。(日本ヘルマンハープ公式サイトより参照)

話は変わりますが、朝のマルチエイジタイムに幼稚園のホールでは平均台で遊ぶことがあります。初めのうちは一方向に向かって渡るだけですが、参加する園児が増えてくると二手に分かれ、両端から歩いて出会ったところでジャンケンをし、負けた方が道を譲るという遊びに変化していきます。

ジャンケンが年長児と年少児の組み合わせになった時のことです。あいこが何回か続き少し自信がなくなったのか、年少児は相手が出したグーを見てから後出しで同じグーを出し、そのまま動かなくなってしまいました。しかし、年長児はとがめることなく、次のジャンケンでチョキを出して「負けた~」と言って降りていきました。

おそらく深く考えての行動ではなかったと思いますが、どうしたらいいか分からなくなってしまった相手の間違いを責めることなく、道を譲ってあげたのでした。遊びの中の小さな出来事でしたが、相手を思いやる姿を見ることができ、とても嬉しく思いました。

こうした小さな体験を重ねていくことで、人を思う心も大きく育っていくのだと思います。一滴の水がやがて川となるように、ヘルマンさんが一人の息子を思う心から生まれた楽器が、多くの人の喜びに繋がっていったように、これからの子どもたちの思いが、平和で、穏やかで、喜びをもたらすものとなるよう願っています。