園長便り

小さなことを大切に

園長:村沢秀和

 ある家のテレビが突然映らなくなってしまいました。原因がわからず、家族みんなで設定がおかしくなってしまったのではないかとか、チャンネルがおかしくなってしまったのではないかなど、いろいろ調べてみるのですが原因がわかりません。結局自分たちの手には負えないということで、電気屋さんを呼ぶことにしました。すると、テレビが映らなくなってしまった原因がすぐにわかりました。なんと原因はコンセントが外れていたのです。普段、テレビのコンセントを入れっぱなしで触ることがなかったので、このような初歩的なミスに誰も気が付かなかったようです。電気屋さんは笑いながら、「故障の原因の多くは、初歩的なもので、専門家を必要としないものなんですよ」と言っていたそうです。

このような初歩的なミスに気がつかないで失敗したという経験を、誰もが持っているのではないでしょうか。そして、このような初歩的な小さな失敗が、後から取り返しのつかない大きな失敗へとつながってしまうことも少なくないことをわたしたちは知っています。

ある高齢の夫婦のお話ですが、ある日奥さんが仕事から帰ってくると、自宅でご主人が首を吊って死んでいたというのです。奥さんは、絶句し、その場に泣き崩れてしまいました。泣きながら、ご主人が自殺してしまったのは、自分のせいだと思いました。ご主人は病弱で仕事ができず、奥さんが看病しながら、生活も支えていました。しかし、その日疲れて、つい愚痴を言ってしまったのです。「あんたも、いい加減に病気がなおるのか、それとも死ぬのかにしてちょうだい」と。首を吊ったご主人の足元には、「病気は治りそうもないから、お前に言われたように、死ぬことにするよ」と。もちろん、奥さんは本気ではなかったことでしょう。疲れて、つい愚痴をこぼしたのだと思います。しかし、その言葉が引き金となって、ご主人は命を絶ってしまったのです。

人間関係は、小さなボタンのかけ違いから、どんどん大きくなって、最後には修復不能になってしまうことが少なくないのです。特に、夫婦の関係において、これが多いように思います。小さなことだから、後から修復できると思っていたのに、気が付いたら、もはや修復不能になっている。逆に言えば、小さなことを大切にするなら、それが大きな幸せにつながっていくということです。

あるご主人が息を引き取るときに、看取る奥さんに対して語った言葉は、「僕は君に対していつも良い夫だったかな」という言葉でした。自分が基準ではなく、愛する人を基準に生きてきたご主人でした。奥さんは「ええ、あなたはいつもわたしにとって最高の人でした」と心から言って見送ったのでした。