園長便り

子どもの声に耳を傾けよう

園長:村沢秀和

聴覚障害者のご夫妻から、赤ちゃんが生まれたときのお話をお聞きしました。彼らには赤ちゃんの泣き声がまったく聞こえません。赤ちゃんは泣いておっぱいがほしいとか、おむつを替えてほしいとか、あるいは寂しくてだっこをしてほしいことなどを伝えるわけですが、どんなに赤ちゃんが大声で泣いても、それがわからないのです。そこでどうしていたのかというと、赤ちゃんの泣き声を感知することができる特殊な機械を使っていたのだそうです。その機械は赤ちゃんの泣き声を感知するとワイヤレス信号で腕にはめているブレスレットを振動させることができるのです。突然ぶるぶるとブレスレットが振動すれば、赤ちゃんが泣いているというわけです。なるほど、そういう便利な機械があるのかと思いましたが、でも二人はお子さんの声を、たとえ泣き声であったとしても、これまで一度も聞いたことがないのだなと思うと、どれほどじかにその声を聞きたいことだろうと思い、胸が詰まりました。

ところで、この聴覚障害者たちに、いま奇跡が起きているようです。現在世界で最も普及している人工臓器の1つに人工内耳と呼ばれるものがあるのですが、これを取りつけると、今まで一度も音を聞いたことがない方でも、音を聞くことができる可能性が出てきたのです。

26歳のエイミーさんは、生まれた時から聴覚に障害があり、これまでに一度も両親の声、そして愛する我が子の声を聞いたことがありませんでした。そんな彼女が、人工内耳を自らの体に埋め込むことを決意し手術に挑みました。そして、手術は無事に成功し、初めて音を聞いた時の動画がネット上に配信され話題になっていました。机を叩く音、病院関係者の声がはっきりと聞こえます。彼女の驚きの表情を見せ、そして目にはうっすらと涙が浮かびます。その後、夢にまでみた家族の声を耳にするのです。6歳の息子から「ハローお母さんと」声をかけられると、エイミーさんは感極まって泣き崩れてしまうのです。その動画を見ていると、こちらまでがもらい泣きしてしまいそうになります。

耳が聞こえるというのは、何と幸せなことだろうと思います。これは当たり前のことではないのです。子どもはいつも、たくさんのことを話したいと思っています。そんな時は、忙しくても一瞬手を止めて、その声に耳を傾けてあげましょう。何でも話してくれる時期はあっと言う間に通り過ぎていきます。だからいま、子どもの声が聞けることに、幸せを感じてほしいと思います。