園長便り

「自信と使命感」

園長:村沢秀和

2012年2月18日に、天皇陛下の狭心症冠動脈バイパス手術が行われたことは、まだ記憶に新しいことと思います。その時手術を執刀したのは、天野篤という順天堂大学の冠動脈バイパス術の専門医で、年間500件の手術をこなし、98%の成功率を持つ日本屈指の心臓外科医でした。興味深いのは、東大医学部付属病院で行われた手術なのに、執刀医が東大医学部付属病院のドクターではなかったということです。東大医学部付属病院の教授たちが、じきじきにこの天野先生を招聘したというのです。また話題になったのは、天野先生は日大医学部出身で、しかも3度も浪人したという、いわゆるエリートドクターではなかったということでした。口の悪い人たちに言わせれば、東大医学部出身のエリートドクターたちが、天皇陛下の手術に対して尻込みする中で、彼が選ばれたのだろうということのようです。医師が手術に対して尻込みすることがあるのだろうかとも思いますが、医師とて人間です。相手が天皇陛下ともなれば、万一のことがあっては許されません。尻込みしてしまったとしても不思議なことではないでしょう。

ある評論家が「自信と使命感が尻込みする心を上回らねばとてもできる仕事ではありません」と言っていましたが、本当にそうだろうと思います。この天野先生が心臓外科医になろうと思ったきっかけは、心臓を悪くした父親を助けたいということがきっかけだったそうです。そして、「もし、ストレートに国公立大の医学部にでも入学していたら、全く挫折を知らず、人の痛みの分からない医師になっていたかもしれない。高校・浪人時代は、「ネジを巻く」のに必要な時間、つまり医師になるための準備期間だったのではないかと感じている」と語っています。

重い責任を負わされたとき、自分には無理だと、尻込みしてしまいそうになるものです。それに打ち勝つ秘訣があるとすれば、それは使命感と自信だと言います。使命感というのは、責任感とも似ていますが、より崇高な思いがあります。医師であれば病気を治さなければならないという思いは責任感ですが、病気を治してあげたい、そのために自分は生きているのだという思いは使命感です。そして自信。その自信は挫折から生まれることも多いです。聖書は次のように言います。「この世の愚かな者、この世の弱い者を(神)は選ばれた(1コリント1:27)」と。自分は愚かで弱い者であるという思いが人を謙遜にさせ、神に頼るという信仰を生み、やがてそれが強さに変わるのです。