園長便り

建てる者と壊す者

園長:村沢秀和

あるアメリカの街でギャングのような少しがらの悪い人達が建物を取り壊していました。大声を上げながら、彼らは梁を揺らし、横壁を倒していきます。そこへ一人の男性が通りかかり、その光景を見て、現場監督に「この人たちは技術者ですか?もし建築するときでも、彼らを雇いますか?」と尋ねました。すると現場監督は笑いながら答えました。「雇うわけがない!ここで必要なのは普通の作業員だよ。建築家が1年かけて建てたものでも、1日、2日あれば簡単に壊せるのさ。」

建築家が一年もかけて建てたものを、たった1日2日で壊すことができる。このことは確かにその通りで、当たり前のことなのですが、この男性は少し考えさせられてしまったのです。多くの時間と労力をかけて築き上げてきたものでも、壊すのは一瞬のことです。このギャップの何と大きいことかと思ったのです。同じ建物でも建てることと壊すことでは、まるで違うということです。その事実を前に、この男性は二つの役割のうち、今まで自分は人生においてどちらをより多くしてきただろうかと考えてみました。はたして自分は注意深く働き、時間をかけて価値ある様々なものを建
てあげる者だっただろうか。それとも、逆に大切なものを一瞬にして壊してしまうようなことをしてこなかっただろうかなど、いろいろな思いが脳裏によぎりました。

建てる者と壊す者、人はそのどちらにもなり得ます。たとえば、人間関係です。お互いに信頼でき、分かり合えるような関係を築き上げるには、それなりの時間を要するものです。しかし、その築かれた関係がたった一言の言葉や態度で一瞬のうちに壊してしまうこともよくあることです。そして一度壊れた関係を元通りに修復することはそう簡単ではないのです。

また、親子の関係はどうでしょう。やはり、子どもが赤ちゃんのときから長い時間をかけて、その関係を築き上げていきます。ただ親子の場合は、血がつながっている以上、そう簡単にその関係が壊れることはないかもしれません。むしろ重要なのは、どのような関係を長い時間をかけて築き上げてきたのか、あるいはこれから築き上げていくのかということです。子どもに何か問題が起こる場合、親子関係のゆがみから生じることが少なくないからです。だから時々、子どもに過干渉になっていないだろうかとか、寂しい思いをさせていないだろうかなど、子どもと正しい関係を築けているかどうか振り返ってみることも大切です。