園長便り

「母の嘘」

園長:村沢秀和

私は貧しい母子家庭の一人息子だった。十分な食料さえなく、食事の時間になると母はよく私に自分のご飯を与えてくれた。 母が自分のご飯を私のお皿に移しながら言った。「これをお食べ、私はお腹すいてないから。」それは母の最初の嘘だった。

母は時間をさいて家のそばの小川に釣りにいった。捕まえた魚が少しは私の成長のための栄養になるだろうと思ってのことだ。釣りが終わって、母は新鮮な魚スープを作ってくれた。私がスープを食べている間、母は私の横に座って、私が食べた魚の骨についた残りを食べていた。私がそれを見たとき、箸を使って他の魚を母につまんであげた。でも母はすぐに断って言った。 「この魚を食べなさい。私は本当に魚が好きじゃないの。」それは、母の二番目の嘘だった。

それから私が中学校の時、私の学費を得るために、母はマッチ箱を作る仕事を始めた。それで私たちの生活費をいくらか補うことが出来た。冬になって眠りから覚めてみると、母がまだ起きていて、わずかなろうそくの灯りでマッチ箱を作る仕事を忍耐して続けているのを見た。「ママ、もう寝よう。こんな時間だよ。明日の朝、また仕事でしょ?」母は微笑んで言った。「早く寝なさい。ママは疲れてなんかないわ。」それは、母の三番目の嘘だった。

私が大学を卒業して、就職してから、やっと年老いた母のリタイアできる時となった。でも彼女はそうしたくなかった。毎朝市場に行って、必要な分だけ野菜を売っていた。 別の街で働いていた私は、母によくお金を送っていた。でも母は受け取らなかった。母は言った。「私は十分持っているわよ。」それは、母の四番目の嘘だった。

いよいよ年老いた母は入院しなければならなくなった。私は最愛の母をしばらくぶりに訪ねた。母はとても歳に見えた。母は笑顔を作ろうとしていた。でも、それは大変なことだとすぐに分かった。病気は母の肉体をひどく痛めつけているのが明らかだった。私は涙を流しながら母を見つめた。心が痛かった。本当に。そんな母の状態を見るなんて。でも母はもっているわずかな力で言った。「泣くんじゃないわよ、痛くなんかないから。」それが母の五つ目の、そして最後の嘘だった。 最後の嘘を言ってから、私の最愛の母は静かに永遠に目を閉じた。

お母さんの息子への愛、そして息子の母親を思う優しい心が伝わってきますね。