園長便り

子どもの前頭葉を守ろう

園長:村沢秀和

脳の司令塔と呼ばれているのが前頭葉です。前頭葉は思考や創造性を担い、生きていくための意欲や、感情などをコントロールしています。また、他者の気持ちを思いやるやさしい心や相手の痛みや悲しみを感じ取ることができるのもこの前頭葉のおかげです。前頭葉は本当に大切なのです。

1950年代、向精神薬がなかったので、精神病の治療法としてこの前頭葉を切除する、いわゆるロボトミーと呼ばれる手術が行われたことがありました。前頭葉を切除することで精神を落ち着かせることができると考えたようです。ところが、この手術には致命的な欠陥があったのです。前頭葉を切除されると、人間らしく生きていく上で致命的な影響を及ぼすことになったのです。

たとえば、外界に対して無関心、無頓着になった。状況を理解したり、推理したりすることが困難になった。我慢ができなくなり、己の感情のままに行動するようになったなど、生きる意欲、創造性、実行力という面で大きな影響が出てしまったのです。この結果、いかに前頭葉が大切なのかが認識されるようになっていったのです。

ところが、この大切な前頭葉が今、壊れてしまうような環境に囲まれているのをご存じでしょうか。ロボトミーの手術を受けなくても、同じような結果をもたらすものが、わたしたちの身近なところにあるのです。それはゲームやパソコン、携帯電話です。

ゲーム脳と呼ばれて最近注目されるようになってきていますが、ゲームやパソコンなどの画面に集中しているときの脳を測定したところ、前頭葉がほとんど働いていないことがわかったのです。さらにゲームを止めた後も、しばらく同じ状態が続くことも明らかになりました。人間の体は使わないとどんどんその機能が衰えていきます。同様に、前頭葉も働かせないと、しだいにその機能が弱くなり、意欲の低下、想像力の低下、実行力の低下につながっていくのです。

子どもが子どもを殺害するという信じられないような事件が起こります。しかも、顔色一つ変えずにそのような残虐な行為をするのです。このような事件はまさに前頭葉が機能していないことを物語っています。想像力が欠落し、他者の痛みがわからないのです。子どもの脳は日々成長しています。だから、ゲームのさせ過ぎには十分注意する必要があります。ビデオなどをずっと見せ続けるのもよくありません。代わりに、自然と触れさせたり、ぬり絵やお絵かき、読み聞かせなどを通して、脳が豊かに成長するように促していくことが大切です。