園長便り

 小さな勇者

園長:村沢秀和

インターネットに「嗅覚を失うまで行方不明者を捜し続けた小さな勇者」と題する記事が掲載されていました。

これは東日本大震災のとき、生存者を救出するために必死に働いた一匹の救助犬レイラの物語でした。調教師が「サーチ!」と声を発すると、救助犬レイラは津波で破壊された家などのがれきの山に入っていきました。しかし、しばらくすると、レイラは困ったような顔をして調教師を見るのでした。その背中の毛は逆立っていました。調教師はこう言います。「あの場所では、遺体しか見つけられなかった。レイラは、生存者を探すように訓練されています。だから遺体を見ると、『どうしたらいいの?』と相談をするためにそばに寄ってくるのです」。調教師はレイラの顔つきやしぐさなどからメッセージを感じ取ります。それは、「発見したけどどうも違うよ」といったものだと言います。

調教師がレイラを連れて被災地に入ったとき、レイラが災害救助犬としての使命を終えることも覚悟していたといいます。というのは、人間の1000倍もあると言われる嗅覚で、遺体の強い臭いをたくさんかぐと、だんだんと嗅覚が弱くなり、災害救助犬としては働くことができなくなる可能性があったのです。そして、それは災害救助犬にとって死を意味していました。想像を超えた悲惨な状況に、調教師は食事が喉を通らず1週間で12キロ痩せたと言います。そして、それはレイラも同じでした。次第に落ち込んでいくのがわかりました。

災害救助犬は、生存者を探すことが使命です。しかし、1人も見つからない。遺体を発見するたびに、レイラの表情は曇っていくのでした。調教師はこう言います。「この子は、きっとヘコんでいたのだと思う。生存者を見つけると、私が誉める。だけど、あのときはそれができなかった」。そんなレイラに気を使う他の隊員さんたちが、捜索の休憩の間、家の中に隠れ生存者のふりをしたこともあったそうです。しかし、レイラはそれを見抜いてしまいます。調教師は苦笑いしながら、「ありがたいことだけど、この子は頭がいい。人間のその思惑を見抜きます。使命感が強いから、どんどんと落ち込むのです」と語っていました。強烈な匂いが漂う中で、さらにレイラは働きました。がれきで足の裏をけがしながらも、生存者を探し続けました。 しかし、生きている人を見つけることができず、ついにレイラは嗅覚を失ってしまいます。レイラの体重は一週間でなんと半分になっていたそうです。

犬になぜ、これほどまでの使命感と人間に対する愛があるのでしょう。それに対して人間は自分のことばかり考えている。そんなことを考えさせられました。