園長便り

子どもを不安にさせない

園長:村沢秀和

 ある絵描きの師匠のもとに、二人の弟子がいました。師匠は、二人の弟子に課題を出し、その課題にあった絵を描くように言いました。その課題は「平安」でした。しばらくして、一人の弟子が絵を仕上げて持ってきました。その絵は、月明かりに美しくきらめく湖水の絵でした。湖面には月が静かに揺れています。師匠はその絵をじっと見つめながら、「静寂さの中に、平安が満ちている。良い絵だ」と褒めました。その後、もう一人の弟子も絵を仕上げて師匠のもとに持ってきました。その絵を師匠が手に取った瞬間、師匠の顔が曇りました。そして「お前は、わたしが出した課題がわかっているのか」と言ったのです。それもそのはず、その絵は大嵐の絵だったのです。その弟子は「はい、わかっています」と答えます。師匠は「この絵のどこに平安が描かれているのだ?」と尋ねました。すると、この弟子は「先生、大嵐の中で、一本の大木が激しく揺れているのがわかりますか?」と尋ねます。「もちろん、わかるが、それがどうしたと言うのだ」。「師匠、よく見てください。その荒れ狂う嵐の中に立つ大木に鳥の巣があります」。確かに、大風に揺れる大木の枝に鳥の巣が描かれています。弟子は一呼吸おいて、こう言ったのです。「師匠、その鳥の巣の中には、一羽の鳥がいて、その腕の中には小さな雛がいます。外がどんなに大嵐でも、この雛たちは母親の腕の中で平安なんです」。師匠はなるほどと深く関心し、「これぞまさしく本当に平安だ」と褒めたのでした。

子どもは母親の腕の中で、いつも安心していられます。外がどんなに嵐であっても、母親が守ってくれると信じているから、安心していられるのです。この安心感が子どもの健やかな成長には欠かせません。だから、子どもを不安にさせないように注意する必要があります。親が不安になると、子どもも不安になります。たとえ不安なことがあったとしても、子どもの前では「大丈夫。何の心配もいらないよ」と言える親でありたいものです。

「恐れるな。わたしはあなたとともにいる。たじろぐな。わたしがあなたの神だから」(イザヤ書41章10節)