園長便り

子どもと過ごす大切な時間

園長:村沢秀和

 昔、「物より思い出」というキャッチコピーのCMで大ヒットしたワンボックスカーがありました。そのCMは、まず女の子が登場し、「楽しかった思い出は?」という問いかけに、「家族みんなで、屋根の上で、寝っころがったのが一番楽しかった」と答えるシーンから始まります。すると、次に男の子が出てきて、首をかしげながら「あんまり、ないんやけど・・・」と寂しそうに言います。そのとき、「物より思い出」とテロップとナレーションが入り、場面はいっきに変わって、美しい湖のそばにワンボックスカーを乗りつけ、楽しそうに遊ぶ子どもの姿が流れます。そんなCMでした。

この「物より思い出」というキャッチコピーが、子どもを持つ多くの親の心を捉えたようで、この車はとてもたくさん売れたそうです。子どもに物を与えるより、一緒に思い出を作るほうがどれだけ大切なことか共感する部分があったのだろうと思います。わたしもこのCMが流れた当時、子どもが小さかったこともあって、子どもとの「思い出つくり」に一生懸命になっていたのを懐かしく思い出します。

ある人が、自分が小さかったときの父親との思い出話を聞かせてくれました。それは家族とサーカスを見に行ったときの思い出でした。彼はその日をずっと楽しみにしていました。ところが、サーカスを見に行く日の朝、父親に電話がかかってきて、急用の仕事が入ったのです。彼はがっかりしました。しかし、父親は「今日は仕事に行けない」ときっぱり断ったのです。母親は「サーカスはまたいつか来るでしょうに」と言いましたが、父親は「それはそうだよ。でも、子どもとの時間は二度と戻らないからね」と答えたのでした。その言葉がうれしくて、今でも忘れられないと彼は言っていました。

第二次大戦中、ヨーロッパで悲惨な体験をした子どもたちが大勢アメリカに連れてこられました。その子どもたちの救援活動の報告によると、戦乱による恐怖の経験の傷を負ったあとでも正常な感覚を取り戻すことができた子どもは、楽しい良い家庭生活の記憶を持っていた子どもだけだったそうです。どれだけ家族との良い思い出が、子どもの心の支えとなっているかがわかります。

特別なことをしなくても、そばに親がいて、一緒に遊んだり、お話したり、笑いあったり、それだけでも子どもには十分楽しい思い出です。ぜひ、たくさんの良い思い出を作ってあげてください。その思い出が子どもの成長の糧になっていきます。また、親にとっても人生の糧になっていくはずです。