園長便り

子どものために祈るのを止めること

園長:村沢秀和

ある牧師の書いた本のタイトル、それが今回のえんちょう便りのタイトルです。「子どものために祈るのを止めること」。初めてこのタイトルを目にしたとき、一瞬「これ、間違いじゃないの?」と思いました。親は普通、子どもの幸せを願って祈るだろうし、そもそも、祈らずにはおれないような心配事がたくさんあるからです。

しかし、その本を読み進めていくにつれて、この牧師さんの言いたかったことの深さに気づかされ、最後には「なるほど、その通りだ」と思わされたのです。

この牧師さんは、息子のために、いつもこう祈っていました。「神様、どうか息子を良い子にしてください。彼の態度がよくなるように、あなたの愛を注いでください。」娘に対しては、「彼女が心の優しい子に成長し、誰からも愛される子になるようにして下さい」。さらに奥さんに対しても「妻が母親として、子どもたちに忍耐強く接し、家庭をいつも穏やかに保てるようにして下さい」と。

ところが、ある日突然、このような祈りは止めなければならないと思うようになったと言うのです。いくら祈っても、思い通りには変わってくれないし、この祈りは、ただ家族に対する自分の願望を押し付けているに過ぎないと気づかされたからです。そして、今までのように家族に対して祈ることを止めたとたん、大きな出来事が起きたというのです。彼はこう言います。

「私は、家族ひとりひとりを新しい光の中で見ることができるようになった。つまり、ひとりひとりが現実のありのままの人間になった。そして、欠点や短所があるままで、彼らを愛することができるようになった。失敗があっても、家族の関係にはさしたる影響はなくなった。要するに、私自身の態度が変わったのである。」

子どもに対して、過度に理想をおい求めるとき、摩擦と抵抗が生じるものです。むしろ、ありのままに受け入れるときに、人は変わります。いや、自分自身が変わるのかもしれません。

考えてみると、小さな子どもは、親をありのままに受け入れます。でも、もし子どもから、「Aちゃんのお母さん(お父さん)みたいになって」と言われたらどうでしょう。ちょっと傷つきますよね。

人は誰でも、ありのままに受け入れてもらいたいものです。そして、その暖かなぬくもりの中で安心し、変えられていくのです。大人でもそうだとするなら、一番小さな子どもは、なおさらではないでしょうか。