園長便り

正直であること 

小学校4年生のある男の子は、漢字の書き取りが苦手でした。それで父親は時間をとって漢字を教えるのですが、なかなか成績が上がりません。そんなある日のこと、この男の子は学校の先生に「ぼくのお父さんは、学校に行っていたとき、いつでも漢字は百点だったんだよ」と言いました。先生が「どうしてわかったの?お父さんがそう言ったの?」と聞くと、男の子は「そうじゃないけど、お父さんがぼくを叱るときの叱り方でわかるんだ」と答えたのです。

父親は、男の子がなかなか漢字を覚えられないものだから、いらいらして叱ってしまうようです。そのとき、まるで、自分が優等生だったような印象を与えていたのです。でも、本当は自分も子どものころ、漢字が苦手でした。

ある時父親は、正直に自分も漢字は苦手で苦労したことを話したのです。父親が正直に話すと、男の子の目に希望の光がきらきら輝くのがわかりました。それから男の子の成績がぐんぐん伸びて行ったのです。

結局、父親が優等生でもあったかのような印象を与えることで、男の子は敗北感や劣等感を持ってしまったのです。しかし、父親が正直に話したとき、男の子は希望を持ったのです。お父さんもがんばったらできるようになったのだから、僕もがんばればできると思ったのです。

親が自分たちの過去のこと、古き良き時代の話をどう語るかということは、子どもの個性や価値観、能力などに影響を及ぼすようです。親も自分と同じように苦しみ、それと戦ってきたことを知って、子どもはむしろ勇気づけられます。子どもは正直に話してくれた親に、愛や尊敬を深めます。

もしも子どもが「暗いところが怖い」と言ったら、「そう。お父さんもお前くらいのときは怖かったよ」と正直に話すと、子どもは安心し、やがて大きくなったらお父さんのように強くなれるのだと希望を持つことができるのです。親が完全無欠を装って、過ちを認めないなら、子どもは失敗するたびに、不安と無力感に打ちのめされることでしょう。

どのような場合でも、子どもの前では正直でいたいものです。そして、子どもの弱さに共感できる親でありたいものです。