園長便り

良い聞き手になること

園長:村沢秀和

 小さな男の子が、指のかすり傷を父親に見てもらおうとしてやってきました。「お父さん、ぼくけがをしたんだあ」。それは小さなかすり傷。もう血も止まっていました。読みものをしていた父親は、少しいらいらしながら、「お父さんに見せたって、お父さんにはもうすることないだろう」と言いました。すると、男の子は「あるよ、お父さん。ただ『痛かったかい?』とだけでも言えるでょう」と答えたのでした。

子どもは自分のことを受け止めてもらいたいと思っています。そしてお話をたくさん聞いてもらいたいと思っています。楽しかったこと、悲しかったこと、驚いたこと、ちょっと自慢したいこと・・・。子どもは真剣に聞いてもらいたいと思っています。

「園長せんせい。中に入ってもいいですか?」。ある朝のこと、一人の園児が園長室を覗き込んで言いました。「いいよ」と答えると、うれしそうに園長室に入り、ちょこんとソファに腰かけました。そして、「わたし、今日、朝泣いたの」と話し始めたのです。「どうして泣いたの?」と尋ねると、その理由を一生懸命に話してくるのでした。

「そう、そんなことがあったんだね。それは悲しかったね」と言うと、「でも、もう大丈夫」とにこっと笑うのでした。

本人にとって大変だった朝の出来事を、聞いてもらいたかったのでしょう。

子どもは、話を聞いてもらいたいのです。そんな子どもの顔を見ていると、真剣に話しているのがよくわかります。だから、こちらも真剣に聞いてあげます。まだ、心の中のことをうまく言葉にすることができないこともあります。そのようなときは、時々こちらから質問してあげて、言葉を引き出してあげると良いこともあります。ただ、子どもの言っている言葉がよくわからなくても、真剣に聞いてあげているという態度が、子どもに自分は受けとめられているという安心感と生きるエネルギーを与えます。そして、どれだけ子どもの話に耳を傾けてあげたかということが、親と子の信頼関係を確かなものにしていきます。

ある教育家が次のようなことを言っていました。「子どもが感じている問題をちゃんと聞き取ることができることと、その子が10代になったとき、どの程度まで自分の問題を親に話すかには、密接な関係がある」と。

子どもが高校生、大学生になっても、いつも親と本音で語り合えるなら、それは本当にすばらしいことです。そして、そのためには今がとても大切なのです。

「だれでも、聞くのに早く、話すのに遅く、なりなさい」(聖書の言葉)